オーストリアのメーデーの後で

(遠方からの観察)
トロツキー/訳 湯川順夫・西島栄

【解説】これは、ドイツにおけるファシズムの勝利後、焦点がオーストリアに移ったときに書かれた一連のオーストリア関係の政治論文の一つである。この論文の中でトロツキーは、「オーストリアではいっさいがすでに失われてしまったかのように言うのは嘘である。労働者は闘うことを望んでいる。前方にははるかに大きな激動が待っており、大規模な変化を起こすことは可能である」と訴えている。

 当時における、オーストリア情勢とオーストリア社会民主党の犯罪的役割については、「次の焦点はオーストリアだ」の「解説」を参照せよ。

 今回アップしたものは、『トロツキー著作集 1932-33』下に訳載されたものを、『反対派ブレティン』所収のロシア語原文にもとづいて修正したものである。

Л.Троцкий, После 1-го мая в Австрии (Наблюдения издалека),Бюллетень Оппозиции, No.35, Июль 1933.

Translated by the Trotsky Institute of Japan


 ウィーンの労働者のメーデーは、ありとあらゆる欺瞞と裏切りと幻滅を味わされてきたにもかかわらず、なお、闘争を望んでいるということを示した。公式の党ないし中途半端な反対派の官僚や半官僚たちが、自分たちの不決断を人民大衆の「意気消沈した気分」に安易にすりかえていることが、またしても明らかとなった。労働者は闘うことを望んでいる。これが、立脚しなければならない最も重要な結論である。

 メーデーにおけるオーストリア社会民主党の政策は、自らのアリバイを立てることであった。すなわち、政府に対するアリバイであり(人民が闘争に突入して敗北をこうむった場合)、人民大衆に対するアリバイである(人民が闘争に突入して勝利を勝ちとった場合)。これよりも不実で下劣な政策を思いつくのは難しい。それが不実であるのは、自分たちには党と指導部があるかのような幻想を人民大衆が抱きつづけるよう仕向けているからである。それが下劣であるのは、この最も困難なときに、中央集権的な指導に慣れきった人民大衆に独力で窮境から脱するよう委ねているからである。

 社会民主党の政策は、プロレタリアートの勝利の可能性を排除している。同時に、それは、いかなる種類の安定政権の可能性をも排除している。プロレタリアートは、興奮状態におかれ、革命的雪辱戦を待望しつづけるだろう。ブルジョアジーは、内乱をたえず恐れながら生活している。軍事的・警察的手段だけでは不十分なことがますます暴露されている。小ブルジョア大衆は、ますますいら立つようになっている。大ブルジョアジーは、ファシズムの独裁なしには秩序を立て直すことができないという確信をますます深めている。こうして、社会民主主義は、その二股膏薬的で不実で騒々しく臆病な政策によって、プロレタリアートをマヒさせ、ファシズムの水車に水を送っているのである。

 マックス・アドラー型の半反対派(オットー・バウアーでさえ今やこの中に数えることができるかもしれない)は、「左から」、この不実な政策をおおい隠し、保護している。労働者大衆の間には、「まもなく上から事態が正されるだろう。反対派がすぐに決断して闘争の道を指し示してくれるだろう」という期待がくすぶっている。こうして、取り返しのつかない月日が失われている。

 社会民主党反対派の左翼は、行動への最初の試みに着手し、市の中心街でのデモンストレーションを大衆に呼びかけた。この呼びかけは成功を見なかった。成功するはずもなかった。なぜなら、指導というものは匿名の組織にもとづくことはできないからである。労働者は、自分たちが相手にしているのが何物であるのかを知らなければならない。

 それは、言うまでもなく、人の問題ではなく、旗の問題、綱領の問題、スローガンの問題、組織の問題である。闘うことを欲している社会民主党左派の人々は、自分たちには「名前」がないことに困惑している。だが、名前というのは闘争の過程でつくられるものなのである。左翼社会民主主義者が自らの行動綱領をもって公然と登場しないかぎり、彼らの呼びかけは空しくこだまするだけだろう。

 共産党は、ドイツにおけるスターリニスト官僚の犯罪的政策によって、社会ファシズムの理論と実践によって、統一戦線問題に関する絶望的なまでの混乱によって、神秘化と偽りの体制によって、すっかりマヒしている。

 ボリシェヴィキ=レーニン主義者は、共産党と社会民主党反対派の中にいる真に革命的な分子との結びつきを求めなければならない。オーストリアではいっさいがすでに失われてしまったかのように言うのは嘘である。労働者は闘うことを望んでいる。前方にははるかに大きな激動が待っており、大規模な変化を起こすことは可能である。このような状況のもとでは、自分が何を望んでいるのかを自覚しているならば、小さな組織でも歴史的役割を果すことができる。

プリンキポ、1933年5月7日

『反対派ブレティン』第35号

『トロツキー著作集 1932-33』下(柘植書房)より

 

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